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名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)28号 判決 1967年1月31日

原告 山ヲ食品株式会社

被告 名古屋国税局長

訴訟代理人 松沢智 外三名

主文

原告の請求はこれ身棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

原告は食品販売、漬物製造を業とする会社であり、被告が昭和三九年一一月九日国の原告に対する本件法人税債権を徴収するため別紙目録記載の物件に対し本件差押処分をなしたこと、原告が右処分に対し原告主張の如く異議の申立をしたが被告により棄却、されたこと、訴外半田税務署長が原告主張の如く本件法人税債権につき督促状を送付したことは当事者間に争いがない。

そこで先ず、本件法人税債権が時効により消滅したが否かについて判断する。

前記によれば、本件法人税は昭和三四年四月二四日を納付期限とするものであるから、本件法人税債権の消滅時効は同日から進行すること明らかである。

しかし、<証拠省略>によれば、訴外水越は、原告営業所所在区域における国税徴収事務を担当する徴税職員であり、昭和三七年三月二二日本件法人税債権に関する滞納処分を執行すべく原告営業所に赴き原告代表者成田正夫に対し本件法人税の納付方を口頭で督促したところ、右成田において原告より本件法人税の取消を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起し、現に右訴訟が係属中であることなどを理由にしてこれに応じないので、滞納処分として原告所有の財産を差押えるべく右代表者に適当な差押財産の有無を質問するとともに原告営業所を捜索したが(被告が同日原告営業所において訴外水越をして本件法人税債権につき滞納処分のため捜索させたことは当事者間に争いがない)、保存のきかない青果物生鮮食料品やその価額が滞納処分費用をこえる見込のない物件のみで、いずれも国税徴収上適当な差押物件と認めることができなかつたので、捜索調書を作成し、その謄本を右成田に交付して引揚げたことが認められ、右認定に反する証人成田岡市の証言中の供述部分は採用し難く、原告提出の全証拠によるも右認定を覆すに足りない。

右認定事実によると、訴外水越は原告の一般財産に対し滞納処分としての差押の着手をなしたが、たまたま差押うべき物件がなかつたので右差押は執行不能に終つたものというべきである。しこうして、右のような差押に着手したときはたとえ差押うべき物がなく執行不能となつた場合でもなお時効中断の効力を生ずるものと解するのが相当であるから本件法人税債権については五年の消滅時効完成前である昭和三七年三月二二日時効は中断されており、本件法人税債権が時効に消滅したとの原告の主張は採用し難い。

次に、本件差押物件が国税徴収法第七五条第一項第五号に規定する差押禁止財産に該当するか否かにつき考えてみるに、右第五号は差押禁止財産につき「主として自己の知的または肉体的労働により職業又は営業に従事する者のその業務に欠くことのできない器具その他の物」と規定し、差押禁止財産の所有者は自然人に限り法人を含まないこと右規定から明らかであるから、原告所有の本件差押物件が右第五号に規定する差押禁止財産に該当しないものというべく、これに反する原告の主張も採用し難い。

そうとすると、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 布谷憲治 藤原寛 植田俊策)

別紙目録<省略>

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